2026.6.28
社長の右腕を、AIで作ってみた(第2回・土台編)AIが急に賢くなる「指示書」の話
朝でも昼でもこんばんは。〝経営数字とAI活用のパートナー〟中小企業診断士の田中 健太郎です。
前回は、AIチームを作る前の準備として、自分の仕事を棚卸しする話をしました。今日はいよいよ、このチームの一番の心臓部、AIに渡す「指示書」の話です。少し専門的にはCLAUDE.md(クロード・エムディー)と呼ばれるものですが、名前は覚えなくて大丈夫。要は、AIに最初に読ませておく申し送りメモのことだと思ってください。
正直に言うと、私はこの存在を知らずに半年近く遠回りしました。逆に言えば、ここを最初に押さえておけば、AIは見違えるように賢くなります。今日はそのからくりをお話しします。
こんな方におすすめ
- AIに質問しても、ネットで調べれば出てくるような一般論しか返ってこない
- 毎回、自分や会社の前提を一から説明していて疲れる
- 自社の事情をふまえた、具体的な答えがほしい
- 「CLAUDE.md」という言葉を見かけたが、何のことか分からない
- AIに、自分が大事にしている価値観を反映させたい
はじめに
「AIって、結局ありきたりなことしか言わないよね」
使い始めた経営者の方から、本当によく聞く言葉です。でも、これはAIの能力が低いからではありません。こちらが「前提」を渡していないだけなんです。
考えてみれば当たり前で、今日はじめて会った人に、いきなり「うちの値付け、どう思う?」と聞いても、まともな答えは返ってきませんよね。相手はあなたの会社も、商品も、お客様のことも、何ひとつ知らないのですから。AIもまったく同じです。何も教えていない相手に、気の利いた答えを期待するほうが無理なんです。
そもそも「プロジェクト」と「指示書」とは
難しい言葉に聞こえますが、会社にたとえると一発で分かります。
まず「プロジェクト」というのは、AIとの仕事場をテーマごとに分けておく部屋のようなものです。経営の相談をする部屋、ブログを書く部屋、というふうに分けておけるイメージですね。
そして、その部屋にあらかじめ貼っておく一枚の紙。これが「指示書」です。AIはその部屋に入るたび、まずこの紙を読んでから仕事を始めます。つまり一度きちんと書いておけば、次からは前提をいちいち説明しなくても、AIのほうが分かってくれる。会社でいう、新人さんに最初に渡す「うちのルールと申し送りメモ」と同じ役割です。この紙のファイル名が、たまたまCLAUDE.mdという名前なだけ。本当に、それだけのことです。
指示書なしで使って、カラ回りした話
恥ずかしい話をします。私は最初、この指示書の存在を知らずにAIを使っていました。
だから毎回、こうです。「私は中小企業診断士で、福岡で中小企業の経営支援をしていて、大事にしているのは…」と、自己紹介から始める。一回ならいいのですが、これを質問のたびに繰り返すわけです。当然、面倒になって長続きしませんでした。しかも、それだけ説明しても、返ってくる答えはどこか他人行儀で、教科書みたいな一般論。これでは使う気が失せます。
転機は、自分のプロフィールと、大事にしている考え方を一枚にまとめて、先に読ませてみたときでした。すると、AIの答えが別人のように変わったんです。急に、私の事情を分かったうえで話してくれるようになった。あのときの驚きは、今でも覚えています。道具を変えたわけではありません。前提を渡しただけです。
なぜ理念やプロフィールを「先に」教えるのか
ここが、今日一番お伝えしたいところです。
たとえば「売上を上げる施策を考えて」とAIに頼むとします。前提を渡していないAIは、たいてい値引きやクーポン、広告を増やしましょう、といった当たり障りのない答えを返してきます。どこの会社にも当てはまる、つまりどこにも刺さらない答えです。
ところが私の指示書には、「顧客の成功が先、自分の利益は後」という、自分が一番大事にしている考えが書いてあります。これが入っているだけで、同じ質問への答えが変わります。目先の値引きではなく、お客様が本当に続けたくなる関わり方を一緒に考えてくれる。自社の都合で売り込むような提案は、最初から出てこなくなるんです。
AIは、渡された価値観のとおりに考えます。だからこそ、自分が何を大事にしているかを先に教えるほど、AIは自分の分身に近づいていきます。スキルや知識よりも、まずこの価値観の共有が先です。
指示書に書く4つのこと
では何を書けばいいのか。難しく考えず、次の4つからで十分です。
ひとつ目は、自分と会社のこと。どんな仕事をしていて、お客様は誰で、何を目指しているのか。AIが背景を共有するための土台です。
ふたつ目は、大事にしている価値観。さきほどの理念がこれにあたります。AIが迷ったときに立ち返る、判断の軸になります。
みっつ目は、やってほしくないことやルール。たとえば私は「ファイルを勝手に消さない、勝手に上書きしない」「迷ったら勝手に進めず、先に私に確認する」と書いています。この安全面はとても大切なので、第4回でじっくりお話しします。
よっつ目は、文体やトーン。私の場合は「都合のいい両論併記で逃げない、はっきり言い切る、数字で語る、自分の失敗談も隠さない」と書いています。これを入れると、出てくる文章がぐっと自分の言葉に近づきます。このブログも、その指示書をもとに下書きが作られているんですよ。
指示書は完璧じゃなくていい。育てるものです
ここで肩の力を抜いてほしいのですが、最初から立派な指示書を作る必要はありません。箇条書きで、数行から始めて構わないんです。
私の指示書も、最初はほんの数行でした。使っていくうちに「あ、これ毎回同じことを言ってるな」と気づいたら、その都度書き足していく。そうやって少しずつ厚くしてきました。人を育てるのと同じで、最初の一日で全部を教えきれないのは当たり前ですよね。AIも、付き合いながら自社のことを覚えてもらえばいい。そう考えると、ぐっと気楽になります。
まとめ
今日の話を三つにまとめます。
- AIが一般論しか返さないのは、能力ではなく前提不足。指示書で前提をまとめて渡すと、答えが変わる
- 一番効くのは、自分や会社のことと、大事にしている価値観を「先に」教えること。AIは渡した価値観どおりに考える
- 指示書は完璧でなくていい。数行から始めて、使いながら育てればいい
AIを賢くする一番の近道は、もっと賢いAIを探すことではありません。自分の頭の中にある前提や考えを、きちんと言葉にして渡すことです。地味な作業ですが、ここが一番効きます。そしてこの作業は、そのまま「人に引き継げる会社」をつくることにもつながっていきます。
次回はいよいよ、この指示書をもとに、実際にAIの担当を作って動かす話です。どんな役割を立てるか、どう指示を出すか、そしてカレンダーやメールとどうつなぐのか。チームが目に見えて動き出す回になります。
よくある質問
Q. 指示書は、どれくらいの長さが必要ですか?
A. 最初はA4半分でも十分です。長さよりも、自分の前提と価値観が入っているかどうかが大事です。足りなければ、あとから足せます。
Q. パソコンや専門の知識がなくても書けますか?
A. 書けます。プログラムではなく、ふだんの日本語で「私はこういう人間で、これを大事にしています」と書くだけです。むしろ、自分の仕事を言葉にできる経営者ほど、いい指示書が作れます。
Q. 一度作ったら、もう変えなくていいですか?
A. むしろ育てていくものです。事業の方針やお客様が変わったら、その都度直してください。指示書が古いままだと、AIも古い前提で動いてしまいます。
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